福井県 -Fukuiken-




 福井県を物理的に定義するならば、「北陸地方において日本海に接する断崖絶壁」の総称を示す言葉と言えるでしょう。また、これに付随する原子力発電所、永平寺、温泉宿などの諸施設を福井県に含める説もあります。当ガイドでは、これらも福井県に含める前提で解説します。



(▲バックミュージックとしてこれを再生して下さい)


   【福井県観光概論(1) 〜福井県の捉え方〜】

 福井県は極めて特殊な県です。というのは、他の県が一定の「土地」に対して「県」を当てはめているのに対し、福井県は一定の「役割」に対して「県」を当てはめているのです。ですから、「福井県に観光に行く」という表現は実は正しくなくて、「福井県を機能させる」「福井県に絡め取られる」という言い方がより適切といえます。また、その意味では、福井県をある種の「舞台装置」と捉える認識方法も有力視されています。

 そこで、まずは福井県の構成を分析することから始めましょう。福井県を構成する核となる部分は、言うまでもなく「東尋坊」です。東尋坊とは北陸地方において日本海に面する断崖絶壁の総称であり、つまり一般的には、この東尋坊こそが福井県と考えられています。福井県の狭義の定義は東尋坊と考えて良いでしょう。


(上:東尋坊空撮)

 一方、広義における福井県定義では、福井県がその機能を果たすために必要とされる舞台装置全てが含まれます。概念的に最も福井県に近いと考えられているのが、東尋坊の近隣にある温泉地、ならびに温泉宿、また、その従業員などです。さらに、それらに食材などを供する漁業従事者も広い意味での福井県民といえます。同様に、それらに電力を供給する原子力発電所「もんじゅ」も、やはり福井県の一部と考えられており、福井県の果たす機能に影響を受けた禅寺「永平寺」もまた福井県の一部と捉えられています。


  【福井県観光概論(2) 〜福井県の境界〜】

 福井県を機能させるためには、最低でも以下の三種の役割が必要とされています。すなわち、

1、刑事
2、被害者
3、犯人


 この三つです。実際には、これに加え、「4、その他」が加わることが一般的です。あなたが福井県を「観光」する場合、このうちのどれか一つの役割を必ず担って福井県と関わることになります。また、この役割を担い、その役割を終了するまで、あなたは福井県民とされます。では、これらの項目に一つずつ解説を加えていきましょう。


《刑事》

 刑事といっても、あなたが警察職に就いている必要はありません。警官OBや私立探偵であっても良いし、記者やリポーター、弁護士であっても務まります。場合によってはOLや家政婦でも問題ありません。ただし、ある程度、他人への関心と好奇心があり、それなりの正義心も持ち合わせている必要があります。


《被害者》

 被害者はどのような犯罪の被害者であっても良い訳ではありません。必ず「殺人事件」の被害者である必要があります。そのため、被害者は福井県民になった時には既に故人である可能性が高いと言えます。ただ、稀に連続殺人事件に発展したり、犯人が二人以上の殺害を目論むことがあるので、その場合は生存者でも「被害者」の役割を担うことがあります。


《犯人》

 これも被害者同様、何の事件の犯人でも良いわけではなく「殺人事件」の犯人に限定されます。しかし、ただ殺人事件の犯人であるというだけでは駄目で、いくつかの条件を満たしていなければなりません。以下のチェックシートにおいて5点以上のチェックが付けば、「犯人」の役割を担う可能性があります。

・人に好感を与える外見である YES / NO
・礼儀正しい言葉遣いができる YES / NO
・出生に秘密がある YES / NO
・腹違いの兄弟がいる YES / NO
・金に汚い YES / NO
・過去に強姦されたことがある YES / NO
・特定の人物に猛烈な怒りを覚えている YES / NO
・難しいトリックを考えるのは苦手だ YES / NO
・横領をしたことがある YES / NO
・誰かに強請られている YES / NO
・親族に死にかけの金持ちがいる YES / NO
・一等親以内に非業の死を遂げた身内がいる YES / NO
・薬学に詳しい YES / NO
・伝統芸能に関心がある、ないしはその担い手である YES / NO
・湯上りはバスタオルを身体に巻く YES / NO
・洋酒の瓶、辞典、クリスタル灰皿、各種置物などが自室や手元にある YES / NO
・電車の時刻表を見るのが好きだ YES / NO
・マイナーなわらべ唄を知っている YES / NO
・刑事と親しい、もしくは最近親しくなった YES / NO
・刑事と性別が違う YES / NO


《その他》

「その他」がいつから福井県に関与するのかは難しい問題です。東尋坊に近い場所にある温泉宿などは常時福井県であると考えて良いかもしれません。しかし、例えばそれ以外の場所にある温泉宿などでは、「キャー」という叫び声や、何者かが争いあう音などが聞こえた瞬間から、そこは福井県になると考えられています。


  【福井県観光概論(3) 〜福井県の機能〜】

 温泉宿などの、いわば「福井県外周部」において、何らかの事件の発生と捜査過程を経た後、あなたはついに福井県の核心たる東尋坊へと赴きます。そこで、もしあなたが刑事であった場合、

1、あなたは犯人より先に東尋坊へ着く
2、あなたは犯人と同時に、もしくは同行して東尋坊へ着く
3、あなたは犯人の後で東尋坊へ着く


 この3つの状況が考えられるはずです。1の場合であれば、遅れて到着した犯人は、被害者(2)を殺害しようとしますので、「これ以上、罪を重ねるのはよすんだ!」などと言いながら、それを止めて下さい。身体能力に関わりなく、確実に止めることができます。2の場合であれば、犯人はおそらくあなたを亡き者にしようとするでしょう。しかし、それは確実に防ぐことができます。3の場合であれば、あなたはおそらく自転車で東尋坊に駆けつけるでしょう。この時は自転車のスタンドを止めたりせず、降りると同時に自転車を転がせて、走って犯人へ肉薄して下さい。

 以上のどれかを経過することにより、犯人は出生の秘密や、過去の因縁、悲惨な家庭状況、経済的理由、犯行に至る心情etc..をとくとくと語りだします。これはとにかく長い上に一人で喋ってるだけなので、刑事であるあなたはややもすると棒立ちになってしまいますが、それでは見ている方もつまらないので、各所に適切な相槌を入れていきましょう。

《相槌例》

・「馬鹿なことをいわないで!」(犯人の動機が復讐にある場合)
・「ふざけないで! あなたのために何人が!」(犯人の動機が経済的理由である場合)
・「信じたくはなかったわ……。まさか、あなたが」(犯人が友人である場合)

 そうして、犯人の長い一人語りが終わると、犯人はいよいよ東尋坊に身投げしようとしますので、「死んでどうなるというの!? 生きて、つぐなうのよ」などといって一応自殺を制してみましょう。犯人は思い留まることもありますが、大抵は気にせず身投げします。身投げした場合でも別にあなたの責任ではないので気にする必要はありません。

 犯人が思い留まったり身投げした後は、今回の事件に関して、一言二言でいいので適当に感想を述べて下さい。よく分からない時は、「後味の悪いヤマだったぜ……」などと適当なことを呟けばOKです。すると、どこからともなく「聖母たちのララバイ」が流れ出しますので、各々おうちに帰って下さい。これで一連の福井県観光が終了します。


  【グルメ】

 なお、東尋坊から飛び降りた犯人は、日本海に落ちた瞬間、そこに潜む越前ガニという凶暴なカニの大群に襲われ、瞬時のうちに白骨化します。越前ガニは福井県から飛び込む犯人の人肉により、大きく、獰猛に成長しており、その肉やミソは極めて美味とされています。


(上:特に獰猛に育った越前ガニ)

 どのような理由によるものかは分かりませんが、福井県を観光する際には、必ず温泉や土地土地のグルメ、名刹、景勝地などを堪能することができます。ですので、福井県を観光する時、つまり、福井県に巻き込まれたときは、高い確率で越前ガニに舌鼓を打つことができるでしょう。その後、自分が犯人となってカニに食われるかもしれませんが、とにかく食べている間は幸せです。なお、福井県観光中はセクシーな女性の入浴姿を目にする可能性も高くなります。

 余談ですが、犯人を喰らい成長する越前ガニ、そして、越前ガニに舌鼓を打つ犯人の関係を見て、そこに永劫輪廻を知った道元は輪廻からの脱却(=解脱)を図りました。そうして建てられたのが「永平寺」です。


(上:福井県の本質をたった二枚で表した素晴らしい切手)


  【問題点】

 以上が、現在のところ都民の間で議論されている福井県の姿です。しかし、この福井県の定義には幾つかの問題があります。そのうちの一つが「観測問題」と呼ばれるものです。

 この問題に関しては、E・シュレディンガーによる思考実験が最も有名です。まず、ある密室を用意します。そして、この中で被害者が犯人に殺されているとします。これは現象としては明らかに福井県ですが、では、どの時点からこの密室は福井県となるのでしょうか? 私たちがこの密室を開けるまでは、まだ中の被害者は被害に遭っているかどうか分からず、いわば生きている被害者と死んでいる被害者の重ね合わせの状態といえるのです。

 これに対しては、「第一発見者が扉を開けたとき」に被害者の状態群が一つの状態に収束すると考えるコペンハーゲン解釈や、密室を開ける際に「生きている被害者を観測した第一発見者」と「死んでいる被害者を観測した第一発見者」の重ね合わせ状態に分岐し、分岐後にどちらか一方が残るとするエヴェレット解釈などがありますが、いまだに福井県の観測問題を解決した解釈はありません。


  【まとめ】

 多少変則的な観光ガイドになってしまいましたが、これは上で説明したように福井県自身のその特殊性によるものです。福井県に関する情報は映像資料が十分にあり、その実態もかなり正確に把握されていますが、それでも確実な福井県の定義は難しいのです。また、福井県は観光をするというよりは、「福井県に巻き込まれる」といった性質のものであり、主観的には自分がいま福井県民であるかどうかの判断も難しいのです。ですから、観光の難易とは関係なく、福井県に絡め取られたと思ったなら、相応の対処をする必要があります。私たち都民も、誰もがみな福井県民となりうる可能性があるのです。気をつけて下さい。

 なお、このガイドを書くにあたり、様々な福井県の姿を紹介したドキュメンタリー番組「火曜サスペンス劇場」を参考にしました。

【観光難易度 測定不能

PR:越前ガニ




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