栃木県 -Totigiken-




 栃木県は北関東にあるといわれる県です。…………しかし、この定義は、いくつかの問題を孕んでいますので、後に詳述します。


   【歴史】

  栃木県において、まことしやかに伝えられている一つの伝説があります。それが九尾の狐伝説です。

 栃木県人たちの信ずるところによれば、時は平安時代末期、鳥羽上皇に仕えし絶世の美女玉藻御前が、その正体たる白面金毛九尾の姿を現すも、三浦介義明、上総介広常、安倍晴明らの討伐隊に討たれたというのです。

 しかし、九尾の狐は討たれてなお巨大な毒石へと変じて人々を悩ませます。毒石はいつの頃からか「殺生石」と呼ばれるようになり、大谷にある巨大な地下ダンジョン奥深くから地上の栃木県民たちへと邪気を発し続けたのです。この殺生石の影響により、渡良瀬川では鮎が大量死し、稲は枯れてゆき、毒水が流れ、多くの栃木県人の命が奪われていったのです。

 ですが、苦しむ栃木県人たちの姿を見て、立ち上がった一人の勇者がいました。その男の名をタナカショウゾウといいます。タナカショウゾウは一振りの大きな金槌を手に、単身、裸形でダンジョンへと挑みました。大谷ダンジョン内部では様々なモンスターがタナカの行く手を阻みます。いろは坂では組織化された猿の軍団に襲われ、戦場ヶ原では巨大なムカデと大蛇を打ち倒します。そして、ついにタナカショウゾウはダンジョン最深部に達し、手にした金槌で殺生石を粉々に砕き割ったのです。

 タナカショウゾウの活躍により、殺生石の邪気は砕かれ、稲は実りを取り戻しました。県民たちはタナカを称え、「玄翁和尚」という名を贈ります。こうして事件は解決したかに見えました。しかし、九尾の狐の邪気はこれで終わった訳ではなかったのです。粉々に砕かれた殺生石は目に見えぬ程の小さな芥子粒となって栃木県内を覆い、いまでも栃木県人たちにくしゃみ、鼻水、鼻詰まり、目のかゆみなどの諸症状を起こし、死に至らしめているのです。栃木県人たちは、この芥子粒となった殺生石を「スギ花粉」と呼び、畏れています。

(上:おそるべき猿軍団)


(上:殺生石を巡る攻防、左がタナカショウゾウ)


  【観光】

 日光にある日光東照宮は、かつては栃木観光の名所として知られていました。ここは徳川家康の神格化された姿である東照大権現が祀られている神社です。家康は栃木県のスギ花粉から江戸の地を守るために、ここで神となってスギ花粉を抑えていたのです。ですから、以前の日本には栃木県人以外に花粉症を患うものはいなかったのです。

 しかし、明治維新が起こり、江戸幕府の命運が潰えると共に、江戸を守護してきた東照大権現の力も弱まります。家康公には既に九尾の邪気を抑える力はなく、栃木のスギ花粉は風と共に江戸を襲い、関東八州を覆い、そして、日本全土に渡って人々を呪い始めたのです。そのため、栃木県の猛毒「スギ花粉」は、今では栃木県人だけの脅威ではなく、日本人全員の脅威と化しているのです。家康公の力が衰えた今では、迂闊に日光東照宮を観光しようものなら、スギ花粉の直撃を受けて即死してしまいます。必ず現地で毒に耐えうる体を作ってから観光に行くようにしましょう。

(上:関東を護る家康)




  【グルメ】

 では、現地の栃木県人たちは、スギ花粉に対し、どのように対抗しているのでしょうか。それには以下にあげる二つの方法があります。一つは伝統的な方法であり、もう一つはより革新的な方法です。彼らのスギ花粉への対処法は、習俗や民間信仰といった枠組みを超えて、いわば一種の宗教と化しており、両派閥間での対立は宗教的対立にも似た様相を見せています。

 さて、まずは伝統的方法から紹介していきましょう。にわかには信じられないことだと思いますが、それは吐瀉物による対処法なのです。おぞましいことではありますが、彼らは互いの吐瀉物を口にすることにより、スギ花粉への耐性を高めようとするのです。

 具体的には、まず、村の処女や巫女などが、新巻鮭の頭部、野菜の切り屑、落ちている豆などを食します。そして、数時間たった後、彼女らは食べたものを吐き戻し、それを村民に振舞うのです。村民たちは吐瀉物を重箱に入れて、ありがたく持ち帰り、それを暖かいご飯などにかけて食するのだといいます。これを栃木県人たちは「しもつかれ」と読んでいます。


(上:しもつかれを作る栃木の巫女)

 また、各自の家庭において、主婦がしもつかれを作ることもあります。栃木県内では「しもつかれを7軒食べ歩くとスギ花粉にやられない」「なるべく多くの家のしもつかれを食べると無病息災」などと言われており、他人の家の主婦の作ったしもつかれをもらって食べることもあるというのです。実に怖ろしいことです。なお、しもつかれは、家々によってその味が全く異なることでも知られています(当たり前ですね)。ですから、他の家のしもつかれを難なく食べられるかどうかは、その人次第となるのです。

 私たち東京都民の感覚からすると、吐瀉物をうまいうまいと言って食べている栃木県人の姿はグロテスクでしかありません。しかし、そのような私たちの価値感覚だけで異文化を判断するのはエスノセントリズム(自文化中心主義)というものです。彼らがなぜそのような奇特な行為をしているのか、それをきちんと見極めなければならないのです。というのは、彼らの行為にはれっきとした医学的根拠があるのです。彼らはお互いに吐瀉物を交換することによりスギ花粉に対する免疫力を高めているのであり、これは彼らなりの生き残るための知恵なのです。そのような彼らの必死の行為を、「キモイ」「汚い」「典型的な非都民」だのと軽々に馬鹿にして良いものでしょうか?

 なお、さらに付け加えるならば、しもつかれを口にするとまるで酒粕で煮込んだような味がすると言います。これはおそらく、巫女や処女が口で噛むことで唾液中のアミラーゼがデンプンを糖化させ、さらに野生酵母が糖を発酵させることでアルコールを生成しているためと思われます。いわゆる口噛み酒に類するテクノロジーであり、これはラテンアメリカなどにも広く見られる製法で、決して栃木だけの特殊なものではありません。このように広く世界に視点を向けることにより、栃木県人のあまりにおぞましい行為も、「そんなにまでおぞましくもないのだ」と受け取り直すことができるのです。野蛮人だからといって、すぐに偏見の眼差しで見ないよう注意しましょう。

 この巫女や処女を中心とした「しもつかれ」信仰が、栃木県全域に見られる村落共同体的な宗教形態であるのに対し、宇都宮市のみで見られる、より都市的な信仰形態が最近話題になっています。それが、ギョウザを信仰する「宇都宮ギョウザ教団」です。彼らはしもつかれを前近代的、迷妄的俗信であると説き、ギョウザこそがスギ花粉に対する特効薬であると謳っています。

 彼らは信者に対し、ギョウザの過剰摂取とギョウザ像への礼拝、喜捨などを促しており、私たち都民の目からすると、まったく馬鹿馬鹿しい非科学的行為ではありますが、しかし、彼らの気持ちが分からない訳でもありません。確かにギョウザには高エネルギー源である肉類と、滋養強壮に良いとされるニンニクが大量に含まれており、スギ花粉への抵抗力をつけるにはもってこいの食品です。また、それらを薄皮に包んだ独特の外観は、スギ花粉の呪いから身を守るメタファーであると解することもできます。これは野蛮人なりの必死の知恵なのです。プラシーボ効果もあるでしょうし、決して馬鹿にしてはいけません。

 昨今、都市部ではギョウザ教団の権勢が高まってきていますが、しかし、地方、特に栃木県北部においては、まだまだ、しもつかれの方が重視されています。特に老人などは、「しもつかれは九尾の狐の毒(スギ花粉)落としに食べるもの」という伝承を信じきっていますし、また、陰陽五行の視点からも、しもつかれは呪術的な食べ物として評価されています。筆者の個人的意見としても、しもつかれは気味の悪い文化ではありますが、しかし、おぞましいからといって淘汰されるのではなく、おぞましいならおぞましいなりに、栃木におぞましく根付いていって欲しいと思っています。

(上:ギョウザ教の御本尊)


  【問題点】

 私たちが栃木県を日本地図で探そうとした時…………。おそらく、すぐに栃木県を見つけられる人はほとんどいないでしょう。「あれれ? そんなばかな」と慌てる人も多くいると思います。

 しかし、一度深呼吸をして、紅茶の一杯でも飲んで、余裕を持って日本地図に目を落とせば、今度は簡単に栃木県の姿を見つけることができるでしょう。そうです。栃木県は実は関東地方にあるのです。東北地方ではないのです。私たちは栃木を探す時に、どうしても東北の方ばかりを見てしまうので、すぐには栃木に気付けないのですね。

 ですが、これは一体どういうことなのでしょうか? 私たちの常識的感覚からして、栃木県が東北地方であることは明確な事実です。にも関わらず、なぜか栃木県は、地図上で関東地方として扱われているのです。地図の製作元に問い合わせてみても、「わからない。私も栃木が東北であるのは知っている。もしかしたら、国の手違いが未だに修正されていないのかもしれない」と、明確な回答は得られませんでした。最近では、この地図を見て調子を良くした栃木県民が、自分たちを関東人だと言い張っていると聞きます。あまりにも身の程を知らぬ振る舞いで、滑稽を通り越して気の毒になってきます。彼らのためにも一刻も速くこの誤謬は修正されるべきです。しかし、未だにこの問題は解決されていません。何か巨大な力が、栃木県を関東地方に縛り付けているかのようです。怪しい陰謀の影を感じるではありませんか……。

 このような問題意識を持っているのは筆者だけではありません。都内でもいくつかの市民グループが「栃木県を東北地方に返せ!」「関東地方の横暴を許すな!」と運動を行っています。都道府県がどの県に属するかは、私たちの常識的感覚に従って素直に決定されるべき問題であり、政治的、経済的意図から、ある県を恣意的に別の地方に編入するなど言語道断の振る舞いです。カエサルのものはカエサルへ返せと言います。東北地方のものは東北地方へと返すべきです。私たちは、一部政府高官による栃木県の恣意的な関東地方編入に、これからも意義を唱え続けたいと思っています!


(上:栃木を東北に返す運動を行う市民グループ)


【観光難易度 ★★★☆☆

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